【田原真人】抑圧からの脱却。自分と向き合い続けた物理教師が説く、「正直」の重要性 (前編)


反転授業の研究・物理ネット予備校フィズヨビ・Zoom革命 代表など
田原 真人さん

「自分ってどんな人?」

この質問に完璧に答えられる人は、この日本にどれだけいるだろうか。

色々な肩書きを持ち、色々な活動をしている田原 真人さん。田原さんの周りには常にたくさんの渦が存在している。その渦を作り出している要因は、そして渦の向かう先はどこなのだろうか。

-抑圧のないコミュニケーションの在り方-

「一方的なコミュニケーションの中に隠れてる抑圧のメカニズムっていうのが、自分はすごく気になっていて、例えば、誰かが僕に話して、僕は思ったこと言えないって時に、なんで言えないのかなっていうと、『なんか言いにくい』とか、『言ったらなんか怒られそう』とかがあるわけだよね。そこには抑圧のメカニズムが働いているわけ。」

 

例えば、教師と生徒の関係を例にあげてみると、生徒が違和感を感じても、それを言動で示すと、先生に怒られそうなどといった理由で我慢する。そこには抑圧のメカニズムが働いている。

 

「そういう抑圧のメカニズムに常にさらされるようになってくると、自分が思ってないことを発言するようになってくるし、思ってないこと発言するようになると、”自分はここは演じてるんだっていう自分”と、”本当の自分”っていうもので分離が生まれて、それで自分の中に壁が出来る。

 

で、その本当の自分を押さえ込んで、ある意味従属してる自分をやり続けることによって、従属してるってことからの自己嫌悪だったり、自己欺瞞だったりがどんどん生まれて、自分自身でないような生き方をする人が大量生産されていく。
そういう支配のメカニズムとか、抑圧のメカニズムみたいなものがすごく気になりはじめて、そういうものをどこから変えていこうかなって考えたときに、まずは抑圧が働かないコミュニケーションの在り方っていうところから変えていきたいなって思ったんです。」

 

学校、会社、家庭など色々なところや、場所に限らずジェンダーの違いや、LGBTや人種による差別などでも、その抑圧のメカニズムは働いている。コミュニケーションの在り方を対話型に変えることで、その抑圧が外れて、そこから社会の在り方までもが変わると言う。

 

「その抑圧のメカニズムが、どれだけ人のエネルギーを削いでるだろうかっていうことを考えていて、その使われてない人間のエネルギーってものすごいんじゃないかなって。自分の中の抑圧がちょっと外れてきただけで、自分のクリエイティビティとかが、その外れたところから吹き出してくるんだよね。」

 

抑圧を外すことによって、ナチュラルな創造性を発揮することができ、それによって色々なことを生み出すことができる。田原さんは、そこにはものすごいパワーがあると考えている。そういった創造社会へのシフトを、まずはコミュニケーションの在り方から生み出していく。ただそんな田原さんも、過去には抑圧されて”本当の自分”を見失っていた。

 

-本当の自分はどこ-

「学生の時は野球部だったんですよ。しかも、僕の世代の野球部っていうのは、ばりっばりの縦社会の野球部で、しかもそこに結構適応してた。要するに、その中で立派に生き抜いてた。で、適応してたってことは、そのシステムの中で結構いいポジションにいてたわけでしょ。その中の中心の方に。だから、普通だったら外に出てこない人生だったと思うな。つまり、レールがあって、そのレールから簡単には外れなさそうな人っているじゃない。そういうところにいたと思う。
だから、子供時代の自分とか、学生時代の自分っていうのを考えた時に、今の自分と同じである気が最近しないんだよね。で、普通は子どもの時の方が本当の自分で、大人になると社会に適応して歪んでくから、子どもの頃に本当の自分のヒントがあるような気がするけど、うちは、子どもの時に親が、子どもはこうあって欲しいっていうのが結構強くあって、早いうちから適応してたと思うんだよね。だから、その頃よりも、今の自分の方が、本来の自分に近いんじゃないかなっていう気がしています。」

 

子ども時代や学生時代の時は、親の期待や、社会の”かくあるべし”という抑圧に適応していた田原さん。その抑圧が外れるきっかけは何だったのでしょうか?

 

-大学院中退、そして予備校講師に、そして起こった3.11-

「親の求めている理想像みたいなのが家庭内にあって、それになっていかなくちゃいけないなって思ってやり続けて、20代後半くらいまでいった時に、やっぱりすごい無理が来てる感じがあった。自己嫌悪とか自己欺瞞とか虚栄心みたいな、そういう色々なものが、自分の中からすごい発動している感じで、そういうところで一旦自分の人生が上手くいかなくなっちゃったっていう大学院時代があり、それで中退して、予備校の講師になったんだけど、そこでまず第一段階というか、そういうものを考え直すきっかけがあった。」

 

自己嫌悪や自己欺瞞をしていると気付きつつも、親の理想に沿って生きていくことを選択していた田原さん。それが、自分の人生の目的だと思っていたそうです。

 

「その後、10年くらい経って、今度は3.11で原発事故があった時に、自分で考えて情報を取りに行くっていう人が、周りにすごい少ないっていうことを見て、『あれ?みんなそうなの?』っていう驚きがあって。
そういう、自分であんまり判断しないとか、いろんな幾つかの情報を組み合わせて、どういうことが起こってるんだろうって深く考えていくことをしなくなってしまっている状況が何から生まれてるんだろうかっていう問が生まれた時に、考えることをすごく押さえつけられている社会っていうことなんじゃないのかなって思ったのが第二段階かな。」

 

田原さんは、メディアによる情報だけで信じたり、動いたりする周りの人に違和感を感じていたようです。そして、それは抑圧のある社会、そして特に抑圧のある教育に原因があるのではないかと感じたようです。

 

「すごい苦しい状況だったのよ。自分は予備校の講師をやっていたから。高校生っていうのをある方向に条件付けて、わぁーっとプレッシャーかけて動かしてるのは、大学受験じゃないですか。その大学受験っていうのがあって、みんな従わないといい所行けないぞっていう恐怖空間の中、それがある種強制力になって動いてると思うんだけど、その中に塾とか予備校っていうのは存在していて、うちにお金を払えばいいとこ行かせてあげるよっていう、そういうビジネスであってね。
で、その中で自分はそれをなりわいにして生活しているっていうことと、自分が気づいた抑圧のメカニズムっていうもの矛盾っていうのに、すごく自分はぶつかってしまって。で、それが、すごく苦しかったんだよね。」

 

抑圧のある社会を変えたいと思ったのに、抑圧を生み出す原因に加担しているという自己矛盾。しかし、家族などといった守るべき存在を前に、急にやめるわけにもいかない状況だった。

 

「自分が、ほんとはこうが正しいよねぇって思えるようなことを仕事にして、やっていけばすごい力が出るけど、自分のこの仕事は、自分の作りたい世界に対しても逆向きなんじゃないのって思うと力が出なくなる。」

 

-反転授業とその先に見える新しい社会-

「そのどうするっていうのが2012年くらいの時で、その時に反転授業と出会って、教育の分野なんだけど、そういう抑圧からむしろ開放していくような教育の在り方で、そっち側で何か仕事ができるようになったら、自分の内側に生まれた矛盾が解消されて、自分の信じる方向に向かって進めるんじゃないかっていうような直感があって、その直感に従ってとりあえず進もうって言うことだったんですよ」

 

反転授業とは、簡単に言うと自宅で動画講義を視聴し、後日教室で知識をアウトプットする学習法だ。つまり、学校で授業を受け、家で宿題をするという伝統的授業スタイルを逆(反転)にしたもの。そして、田原さんは、反転授業の研究というFacebookグループを作成し、自分自身もそこから学んでいる。今では、約4500人のグループメンバーがいる。

 

「僕自身が、反転授業の研究をやって対話をしてくことで、すごい変容が起こっちゃったのね。で、僕の周りの人も同時にどんどん変容が起こってったわけで。
対話の中で、言語化されてくる真実みたいなのが、あるわけよ。こういうことだよねっていう気づきが得られちゃうと、もう元に戻れないんだよね。ほんとのことを知ってしまえば、もう嘘の世界にはいられないから、後戻りできない形で変容が進んでくわけ。」

 

反転授業の研究では、関係性をフラットでオープンにしていく取り組みをしたそうだ。そうすると、グループの中で様々な渦が生まれ、その渦の中の人全員が、変容・成長したという。

 

「だから、正直なコミュニケーションっていうのは、すごいパワフルなんだっていうのに、気づいた。そうやって対話を開いていった時に、自分っていうものを手放してくことが、大事なんだっていうね。自分の見えてる範囲っていうのが、物事の限界を決めちゃってるから、周りを信用して、それを外してくっていうことをしようと思って、徐々に出来るようになってきた。
そうすると、今までと評価されるポイントが全然変わってきた。今までは、能力とかスキルみたいな”市場経済における商品価値”みたいなのが評価されるっていう風に思ってたんだけど、そういうコミュニティの中では、”在り方”の方が評価される。在り方っていうのは、正直なこと。正直に反応することが出来ると周りがすごく安心する。それがポジティブであれ、ネガティブであれ。なんか違うなって感じたらちゃんと違和感を出すし、すごくいいって思ったらすごくいいって発言するし、嫌だったら嫌だって言うし。その正直な反応をすることによって、みんなが何が起こってるかっていうのを理解して、進むべき方向が見えてくるっていうことになるから。」

 

「正直であること。」それが重要だと言う。抑圧され、自己欺瞞をするのではなく、正直になる。そうすると、自分のパワーが湧いてきて、自分の周りに渦が巻き起こってくる。日本で行われているコミュニケーションの多くは、抑圧のメカニズムによって、正直になることができないと言う。

 

「正直な人を増やしたいんだろうねきっと。そこで正直であるっていうことは、ある意味、抑圧から外れてった人だっていうこと。そういう自分の蓋が開いてきて、自分と繋がれてる人。そういう人が増えていって、正直なコミュニケーションっていうのが起こる中で、学んでったりとか、いろんな活動が生まれたりだとか、そういうことになってったらいいなぁっていう風には思ってる。」

 

それは、自然で創造的な社会。正直であることが生み出すパワーというものは、計り知れない。後編では、田原さんが、どのようにしてそのような世界に変えようとしているのか。そして、正直のその先に迫る。

 

 <後編に続く>

後編はこちら

 取材・テキスト/村上鴻

 

田原 真人 公式ブログ http://masatotahara.com/

反転授業の研究 http://flipped-class.net/wp/

物理ネット予備校フィズヨビ http://phys-yobiko.com/

Zoom革命 http://zoom-japan.net/

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